比例と反比例を、「ひますの絵」で眺めてみましょう。
比例になるか、反比例になるか、を判定する方法は、なにかあいまいな感じがします。
抽象的で、実態が見えないし、具体的なものがイメージできません。
小学校では、
・xが、2倍、3倍になるときに、yも、それにともなって、2倍、3倍になるとき、
yは、xに、比例する。
中学校では、
・aを定数として、y=ax、と表されるとき、yは、xに、比例する。
などという、定義のようなものがありますが、「ふうーん」という程度にしか頭に入ってこないものだと思います。とくに、小学校のものは充分条件とは言えません。
どうしてそうなのかの結論を言うと、「比例や反比例になるさまざまな事象に共通する視点というものがなく、表現するモデルもなかった」ということになります。
つまり、「速さが一定の時、道のりは時間に比例します。」とか、「単価が一定の時、代金は個数に比例します。」とか、「力が一定の時、圧力は面積に反比例します。」とか、個々の具体例は示せても、それらをまとめ上げる概念がなかったということになります。そして、xとyの対応表とかy=axなどの式とかグラフとか、そういうもので特性を観察してみるということしか、共通の性質を眺めてみることができなかったということです。いろいろな関数の判別とか特性を学ぶには式やグラフは大切なものですが、それを読み取るのはなかなか大変です。比例と反比例についてはそこまで求めなくても、どんな事象なのか直感的に理解して、日常の生活に役に立つように学ぶことの方が大切だと思います。
さて、ここで、「ひとまとまりの量」という考え方を導入してみましょう。この考え方はあらゆる数量に適用できるので、比例や反比例はすべて、「ひます」の乗除関係としてとらえることができます。そして、「ひますの絵」を使えば、あらゆる種類の比例や反比例の特性を観察することができます。
では、具体的に見ていきましょう。
まず、「速さが一定の時、道のりは時間に比例します。」を表現してみます。
以下の3つの「ひますの絵」を見比べてみましょう。
「速さ」は「ひ」:「ひとまとまりの量」です。この図では時速5kmになっています。
時間で区切った移動の長さで、1時間当たり5kmずつ進むということです。
「時間」は「ま」:「まとまりの個数」です。
「道のり」は「す」:「すべての量」です。
それぞれ「ひ」の右側の[ ]内の単位を確認してください。
上の図から順にみていきましょう。
時間「ま」が、3、6、9、と増えていくと、道のり「す」は、15、30、45、と増えていきます。つまり、時間が2倍、3倍になると、それに伴って道のりが2倍、3倍になります。
でも、「ひますの絵」を見れば、数値を計算する必要性はあるでしょうか。
見ただけで、「ま」が2倍、3倍になれば、「す」が2倍、3倍になることは明白です。
それは、どんな数値について考えても、それが言えます。
「比例」とは、こういうことなのです。
小学校の学習としては、直感的に分かることが大切なので、比例であるかどうかを判定するには、これで十分なのではないでしょうか。
また、「ひますの絵」を見れば、比例は「速さが一定の時、道のりは時間に比例します。」という一方的な見方ではなく、「速さが一定の時、道のりと時間は、互いに比例します。」というとらえ方ができると思います。
では、比例の式を作ってみましょう。中学校では式を作って比例を判定します。
比例の式では、独立変数と従属変数を特定しなければならないので、「速さが一定の時、道のりは時間に比例します。」ならば、道のり「す」を「y」、時間「ま」を「x」としなければなりません。それを「ひますの絵」に表すと、以下のようになります。
yをxの式で表すのですから、「す」=「ひ」×「ま」を使って、y=5x、となります。
比例の式ができました。式を作ることも、「ひますの絵」に表現してあれば、容易です。
さらに、「速さが一定の時、道のりと時間は、互いに比例します。」なのですから、
「速さが一定の時、時間は道のりに比例します。」の式もできるはずです。
この場合は、「ま」を「y」、「す」を「x」としなければなりません。
「ま」=「す」÷「ひ」ですから、y=x/5、となります。これは、
としないと、反比例の式と間違ってしまう可能性があります。ただ、はじめの式を一度書くことによって、xを定数でわっても比例になるという内容まで、学ぶことができます。さらに、分数定数の比例があることまで学ぶ機会を作れる、ということになります。「ひますの絵」の「ひ」の2つの単位をいろいろと変えると、あらゆる数量をこの視点で観察することができます。「単価」であろうと、「密度」であろうと、「割合」であろうと、あらゆる数量の関係を比例や反比例の視点で考察することができます。どんな数量であっても、「ひ」が定数の場合は、以下の図のどちらかです。
「yをxの式で表しなさい。」と問われたら、「ひます」の乗除関係がありますから、
左の図からは、y=ax の式が作れ、右の図からは、y=x/a の式を作れます。
ほかのパターンを見てみましょう。
「時間が一定の時、速さと道のりは互いに比例します。」
上から順にみていくと、
速さ「ひ」が、5、10、15、と増えていくと、道のり「す」が、15、30、45、と増えていきます。つまり、速さ「ひ」が2倍、3倍になると、それに伴って道のり「す」が2倍、3倍になります。もちろん、道のり「す」が2倍、3倍になると、それに伴って速さ「ひ」が2倍、3倍になるとも考えられます。これも、この「ひますの絵」を見ればどんな数値の時でもそうなることが、直感的に分かると思います。xとyを左図のように設定すれば、y=3x、の式、右図のように設定すれば、y=x/3、の式ができます。当然、「ま」をaとすれば、右から、y=ax、左から、y=x/a、の式ができます。
では、道のり「す」を一定にすると、どうなるでしょうか。
道のり「す」を12として、固定しています。上から順にみていくと、
速さ「ひ」が、2、4、6、と2倍、3倍に増えていくと、
時間「ま」が、6、3、2、と1/2倍、1/3倍に減少していきます。
次に、時間「ま」を2倍、3倍にする場合を見てみましょう。
上から順にみていくと、時間「ま」が、2、4、6、と2倍、3倍に増えていくと、
速さ「ひ」が、6、3、2、と1/2倍、1/3倍に減少していきます。
いずれでも、数値を入れないで考えたとしても、同様のことが言えると分かると思います。
これが、反比例ということです。
比例と比べると、ちょっとわかりずらいと思いますが、この「ひますの絵」を子供たち自身で書いてみれば、自分の言葉を使ってこの現象をさまざまに表現することができると思います。
「ひますの絵」にすれば、「ひます」の乗除関係を活用して、容易に式を作れます。
さらに、等式の変形などの技を使わなくても、xy=aなどの式も、無理なく作ることができるので、学習の幅が広がると思います。
反比例を学習するときに、面積図を活用することが多いと思いますが、それと
「速さが増せば、時間が減る。」とか、「値段が上がれば、個数が減る。」
などを結び付けるのは、なかなか困難だと思います。複数の「ひますの絵」をよく観察・比較することで、反比例というものがどういうことなのか、理解されるものと思います。
これまで出てきた、比例と反比例を並べて観察してみましょう。
左から順に、「ひ」が定数ならば、残りの二つ、「ま」と「す」が、互いに比例します。
「ま」が定数ならば、残りの二つ、「ひ」と「す」が、互いに比例します。
「す」が定数ならば、残りの二つ、「ひ」と「ま」が、互いに反比例します。
これ以外の比例と反比例はありません。ですから、その対象とする事象の「ひとまとまりの量」が明らかならば、上記の方法を比例や反比例の判定方法としていいのです。
・xが、2倍、3倍になるときに、yも、それにともなって、2倍、3倍になる
これは、比例の性質であって、比例になる充分条件ではありません。2倍3倍をn倍としたとしても、数組のxyの値を見比べて、比例と判定することはできないはずです。このような論理的におかしいことをやっておきながら、のちのち、「2つ3つ具体例を出しても、それでは証明になっていません。」などという授業をしているのが、現状なのです。
数を使って事象を表現し分析するとき、どんな量に対しても「ひとまとまりの量」は存在しているわけですから、「ひます」の乗除関係から比例や反比例を判定したほうが、よほど合理的です。2つの数量xとyの間に、どのような関数関係があるのかを示さなければ、関数であるかどうかを判定できないわけですが、比例と反比例の場合は、定数aと変数xと変数yの乗除関係だけなわけですから、「ひます」の乗除関係で説明がつくし、判定できるのです。
ただし、様々な事象の中には、すんなりと「ひとまとまりの量」がわからないものもあります。その場合こそ、関数的な見方でその特徴を読み取り、関数の式にして比例や反比例を判定するという学習をしていく必要があります。
分かりやすい「ひとまとまりの量」が見えない事象でも、最終的には何らかの「ひとまとまりの量」が存在するはずです。それを明らかにしないと、本当に信頼のできる明確な関数関係とは言えないはずです。比例反比例と言えど、関数の学習はなかなか奥が深いのです。










コメント
コメントを投稿